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2007年10月21日

「被災者生活再建支援法」の二度目の改正の論点を考える
―被災者に安心と希望を与え、被災地の早期復興の実現を―

出口俊一

 この秋の臨時国会に「被災者生活再建支援法」の改正案が2本提出された。1本は、与党(自民、公明)が衆議院に、もう1本は、野党(民主)が参議院に。7月の参議院選挙の結果が反映しているのであろう。これまでにない新たな状況とその改正の行方に大いに期待と関心を寄せている一人として、気になる以下の改正の論点について「討議資料」としてまとめておくことにする。

1.財務省官僚の「三点セット」

 与野党の改正案には「住宅本体への支援」が明記されているので大きな前進と言えるが、財務省の官僚は依然、本法の改正問題に関して次のような主張をしているという。

 「今回の二度目の改正で、この問題は打ち止めにしてほしい。そして、以下の三点セットが基本である。(1)住宅本体への支援ではなく、使い勝手が悪いから、定額で見舞金とする (2)金額の上限は300万円、ビタ一文上げない (3)遡及適用はしない」。

 国民が納得する内容で改正するなら打ち止めになるかも知れないが、「三点セットが基本」であるなら、打ち止めにはならないであろう。

 以下、「三点セット」に関して、先に提出された内閣府の「被災者生活再建支援制度に関する検討会」(検討会)宛の意見書やパブリックコメント(日本弁護士連合会、兵庫県弁護士会、塩崎賢明、出口俊一)の中から引用させていただいた。

2.「住宅本体への支援はしない」ことについて

 住居が全壊あるいは大規模損壊し、住居を建て直すしかない被災者、安全な住居とするためには補修を必要とする被災者にとって、建設費、購入費や補修費の負担は最大の問題である。住宅本体への支援がなされなければ、真の意味での居住安定支援にはならない。

 この点国は、「住宅は個人財産であり、その保全も自己責任によるべきであって、税金による支援を行うべきではない」とし、「私有財産の形成に公費の支出は認められない」との立場をとってきた。

 しかし、大規模自然災害により住居に大きな被害を受けた被災者に、住宅本体への支援金を支出することは、憲法の保障する私有財産制と何ら矛盾するものではない。私有財産制度とは、国が個人の財産権を保障し、国家権力がこれを恣意的に収用することを抑制する制度であって、自然災害により財産的被害を受けた被災者を国家が支援することとは何ら矛盾しないからである。

 また、憲法は、第89条で公金の支出の制限を定め、宗教団体や公の支配に属さない慈善・教育等の事業への支出を禁じているが、私人への支出それ自体は禁じておらず、むしろ国民生活の安定を図ることが国家の責務であることを考慮すると、「私有財産の形成に公費の支出は認めない」との考え方は、災害復興の場面においては適合しないのである。

 さらに、住宅は、地域社会において、住環境や景観を形成する要素として公共性を有することが明らかであり、住宅の再建は地域社会復興への第1歩であると言える。従って、住宅の再建をすべて自己責任に委ねることは、妥当ではない。

 また、住宅所有者のみへの資金提供となる点が、住宅非所有者との不公平を生じるのではないか、との指摘もあるが、借家人等にとっても住宅の早期再建が居住安定につながること、住宅再建等に一定の公共性が認められること等を考慮すれば、実質的平等が損なわれることはない。

 従って、建設費、購入費、補修費といった住宅本体の費用も支援金支出の対象に含めるべきである。そして、被災者の具体的必要性に応じ、住宅建設・補修の設計費への支援、住宅の設備等への支援、集合住宅の共用部分への支援にも支出対象を拡大していくべきである。

 財務省の官僚が、面子に拘って変化球勝負で決着をつけようとしても、決め球の直球?住宅本体への支援?をもっていないと、「打ち止め」はますます遠のいていくであろう。

3.「金額の上限は300万円、ビタ一文上げない」ことについて

 現在法定されている支援の上限額は300万円であるが、支援の範囲を住宅本体の費用にまで拡大するべきであり、これに伴い、支援金額の上限も引き上げるべきである。

 なお、上限額については2000年4月、自然災害議連の公助案において、住宅の再建について少なくとも平均1700万円程度の費用が必要となるとの試算(旧建設省)をもとに、その半分の850万円を支援する案がまとまったことがある。

 「首都直下等の大規模災害を考えると財政が破綻する」との意見があるが、首都直下等の大規模災害が起きたときは、まさに国家的危機・戦争並みの事態であり、防衛省予算などの組み替を考えるべきである。1台1400億円もの装備が、予想される災害より低い確率の戦争を想定して大量に配備・財政支出されている。わが国のどこにも資金がないわけではなく、眼前の危機に対して公的資金を支出する制度を作ることが重要である。現状でも、個人の住宅再建に支援する方が全体としての財政支出は低く抑えられる。

 阪神・淡路大震災では約5000棟の自力仮設住宅が平均900万円で建設された。彼らは応急仮設住宅や復興公営住宅の世話にならず、地域の活性化に貢献し、自力で恒久住宅に建替え・改築したのである。応急仮設住宅は1戸当たり400万円の公費を投じ、なんらのストックにもならず、復興公営住宅は1戸当たり1400万円の費用が必要である。

 従来、自然災害議連や旧国土庁の検討委員会での議論の中でも阪神・淡路大震災で仮設住宅や復興公営住宅に膨大な支出をしているのであるから、今後、住宅再建支援策を確立しておいた方がトータルに見れば公費の支出減になるのではないか、という意見が、繰り返し表明されていた。

 例えば、被害規模のよく似た二つの地震後の仮設住宅と復興公営住宅(能登は未定)の建設戸数を比較すると、鳥取の方は、地震から11日目の300万円の住宅再建支援策が奏功して、仮設住宅と復興公営住宅の建設戸数を抑えることができたと言える(片山善博・前鳥取県知事談など)。

        鳥取県西部地震(鳥取県分)  能登半島地震(石川県)
 ○全  壊       391棟            590棟
 ○半  壊      2,472棟           1,170棟
 ○一部損壊      13,195棟           10,278棟
 ◎住宅支援策     300万円           100万円
 ○仮設住宅        28戸            334戸
 ○復興公営住宅      26戸(町村営)    現在、検討中

 災害直後から自力仮設住宅を建設できる支援があるならば、公的支出の増大が抑えられることは明白である。事前自助努力の阻害要因論は、いわばためにする議論である。現場で調査してみれば、災害後の支援を当てにして、事前努力を怠るなどという人はいない。事前努力は意識の高さと資金力に依存しているのである。実際、本制度ができたために、事前努力が以前より減少したというデータはない。事前努力への意識喚起・資金援助も必要であるが、災害後の支援の充実も不可欠なのである。

4.「遡及適用はしない」ことについて

 現在、内閣府に設置されている「被災者生活再建支援制度に関する検討会」においても被災者生活再建支援法の改正が検討されている。この検討会が発足し第1回検討会が開催された2007年3月1日以降、能登半島地震(同年3月25日)、台風第4号被害(同年7月中旬)及び新潟県中越沖地震(同年7月16日)と、立て続けに大規模な自然災害に襲われた。これら自然災害による被災地の被害はいずれも甚大であり、被災者は住居を失い生活再建の目処が立たないなど過酷な状況を強いられている。

 検討会では、このうち能登半島地震の被災地自治体及び被災者らのヒアリングが行われたが、台風第4号と新潟県中越沖地震の被災者らの実態については必ずしも十分な検討が行われたとは言い難い。与党の改正案は、遡及適用しないことになっている。

 遡及適用が原則として否定されるのは、改正の効力を遡らせることによって国民に不利益が生じたり、事務混乱等の支障が生じるところに理由があるのであって、現在検討されている被災者生活再建支援法の改正内容は、被災者への支援をより充実させ、事務の簡素化を図るところに目的があるから、遡及適用による条理上の不合理はそもそも生じない。

 むしろ、本制度は、自然災害によりその生活基盤に著しい被害を受けた者が自立した生活を再建できるようにするところに目的があるのだから(被災者生活再建支援法第1条)、既に深刻な被災の実態が存在しているのを認識している以上、それに対し支援・救済することは、制度の目的に合致するものである。検討会で検討が開始されたのは2007年3月1日であるが、検討の過程で生じた3つの大災害で生じた課題は、まさに今回の検討の俎上に載せられた課題であり、これらを対象外とする方が社会的には不合理であり、被災者の復興への意欲や将来への希望を失わせるおそれさえある。

 財政的な面からしても、現行の被災者生活再建支援法の適用対象となる全壊家屋数は、能登半島地震が約630戸、台風第4号が約18戸、新潟県中越沖地震が約1000戸であり、仮にこれら全戸に満額(300万円)を支給したとしても支給総額は約50億円にとどまり、被害規模との比較においても十分に実現可能である。

 「遡及適用はしない」との頑なな態度は、能登半島や中越沖などの被災地と被災者に憤懣やるかたのない不公平感を抱かせるだけである。

 被災地において今後の生活に深刻な不安を抱えている被災者らに対して安心と希望を与え、自立的な生活再建を可能とし、もって被災地の復興を実現できるようにするために、是非とも改正法の遡及適用を行うべきである。

(でぐち としかず、兵庫県震災復興研究センター事務局長)
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